●2001年01月30日(火)
【トマトもジャガイモもなかった国】
仕事が済んだ帰りの飛行機で、パリからマラガまでの時間を二人の南米人と隣合った。一人はなかなかたっぷりしたペルーの年配の女性で、もう一人はエルサルバドールの男性だった。二人とも出身は南米の国だが、随分と賑やかな居住歴を持っていた。あちこちの国のお話しが聞けてとても楽しかったが、二人はそれはウィットに富んだ、おしゃべり上手で私は終始笑い転げてばかり居た。 ペルーのおば様の方は、その昔、白豪主義で有名なオーストラリアの青目金髪の青年の熱烈な求愛のもとにかの国にお嫁に行き、30年近い人生を送ったのだと言う。ご主人の親戚も今は少なくなり、子供達も独立したところでおば様の妹さんがスペインに来てここで老後を過ごさないか、としきりに恋しがって説得にかかったらしい。ついに夫婦してそれでは、今度はラテン系の国に住んでみようという事になったのだと言うのだ。 始めは旦那様の国、50代後半からは、もういいでしょう?ここからは私の番よ、みたいでなかなか面白いと思いません?こういう暮らし方もあるんですね。マラガ県というのは南スペインでも有数の避暑地で夏になると外国人が現地のスペイン人人口を上回ってしまうのだ。おば様が選んだマルベージャという避暑地はマラガでも最高級の土地柄で映画俳優や貴族、富豪がひしめいているのだ。そこにちょっと高級な美容院のチェーン店の第一店舗目を開店したばかりだと言うではないか。ははぁん、道理で...。こんな飛行機の旅なのに髪がきちんと素敵にセットされていて、初対面からこのくらいの年配の女性はみだしなみがいいなぁ、と感心していたのだ。プロだったのか! マルベージャは文字通りハリウッドの映画並のすごいパーティが連日あちこちで開かれているから、髪のセットや美顔術の確かな美容院は成功間違いないのだそうだ。私の髪にまでプロのアドバイスを戴いて、楽しく拝聴した。 もう一人のエルサルバドールの男性は、ユル・ブリンナーみたいな坊主がりというか、剃髪しているのでちょっと見には僧侶か前衛のアーティストみたいだと思っていたら、なんとマルページャのスポーツ・クラブのオーナーという事だった。ご本人は随分と空手に年季を入れていて、先生は日本人だったと言うのだ。すっかり3人で意気投合してしまった。 そこへ機内食が運ばれて来て、今度は世界のお料理について二人がさかんにうん蓄を傾けて興味深い料理談へと発展して行った。みなさん世界を股にかけたビジネスマンでいらっしゃるから、そりゃあ和食にも詳しかった。またまた気を良くしてしまったのだ。スペイン料理に話題が流れると、ここで二人はスペインなんざ、あの中南米の国を滅ぼした暗黒の搾取の歴史がなかったなら、トマトもジャガイモも口には入らなかったのだよ!と憤然と言い放った。無知な私はびっくりしてしまう。あら!トマトは中南米からもたらされたんですか?二人して「然り!!」じゃ、その前は一体何を食べていたの? 「ヨーロッパ人なんか暗い、中世の貧しさでNAVO(かぶ)をかじっているしかなかったのさ!」おいしい物はみーーんな中南米からもたらされたのだと二人はしきりと熱弁をふるい、通りがかりのイベリアのエア・ホステスがちょっと眉をひそめたような様子を、私は一人にやにやして聞いていた。 中南米の研究も楽しそうだな、と思ったのでした。
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