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2004年02月のセビリア発信・つれづれ草
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●2004年02月28日(土)

Juan Centeno

夕べはついにホアンにSOSを発した。
今度の公演のシナリオはとっくにできているのに副題が決まらない。
日本語でもスペイン語でも、こういうのを何と言うか、キーになる言葉が決まらないのだ。
説明するとみんな膝を打って、うん!!あるよね、そういう事!!!と共感してくれる。
着想素晴らしいね、いいね、いつ見れるの?と飛躍する。

印刷できないで困ってるの。チケットの予約がどんどん来るのにチケット印刷できない。ちらしできない
ポスター間に合わない。助けてーーー

「ちょっと待って、今、来かかえってるから。もう、そこにいるんだ」
彼はこういう。
集中しようとしてこめかみの辺りに手をやる。
一種、畏敬の念に駆られる。この後にきっと納得できるような言葉が泉のように湧くのを、知っているのだ。

厳選で五つ挙げてくれた。
私が思っていたのに近いけれど、もっと磨きがかかってすっきりしている。
さすがだ。
そのうちの一つを日本語として、もう一つをスペイン用の副題に決めた。

「鏡の向こうに.......Meditacion」


ホアン・センテーノは、詩人の霊感に溢れた文学的素養に富んだ男性で、
多くの録音に歌詞で貢献している。
シンガーソングライターで、結構素晴らしい作曲もする。
ギターにピアノに何でもこなす。勿論フラメンコの造詣も深い。

落ち着いた雰囲気と、内に秘めた詩人の霊感と情熱が節度正しく溢れるこの人との会話は素晴らしい。
何か発想するとすぐにサポートしてくれる。
私の眠っているもう一つの頭脳みたいに気持ちがぴったり合う。

こんな風にして毎日仕事ができたらどんなにいいかといつも思う。
私のような職業と性格の女性には、どうしても周辺にいて欲しい逸材なのだ。
ただ、この人も本当に忙しい。
あんまり才能が有りすぎてちっとも追いつかない、と言う種類の人だ。

「今、戯曲を書いているんだ、今度見せるよ。」
「私の本の翻訳も手伝って」
「うん、会わないといけないよね、もっと」

私は苦笑する。この会話、いつも私達の落ちなのだ。
お互いに啓発されることが多いから会うと、もっと会わないと、と言い合うのだけど
その言葉の余韻はすぐにごたごたの仕事と日常にかき消える。

得がたい友なのだ。

●2004年02月27日(金)

甘き目混ぜの一瞬、「!」

昨日の撮影はとっても苦労だったけれど
それなりに得るところはあった。

やっぱり衣装を着ると、私もラモンも全然別人になってしまう。
いつもどろどろになっているところしかお互い見ていないので
とても新鮮だった。
こんなに僕達って着映えがする???てなものだ。
なんとかにも衣装って言うくらいだから、包み紙は大事だ。

ラモンはめいっぱいめかしこんでいる私を見て呆然とし、あとは俄然頑張り出した。
二人で衣装付きで踊ったりなんかしたくらいだ。

凄いセンスのいい衣装だねぇ、と惚れ惚れと感心してくれた。
まさにぴったりのイメージだよね、と喜んでくれたので嬉しくなった。
合わせた訳ではないのに、彼の用意した衣装と色味もぴったりで、生地もおそろいのように合っている。
夢のように美しく見えた。
錯覚でなければいいのだけれど.........(笑)

作品全編の色が幕開きからみんな出揃って、鮮やかにイメージが決まった。
踊りとの兼ね合いがはっきりとイメージできて二人の気持ちもとても弾んだ。
そうだ、気持ちが弾んだのだ。

ラモンは移動の車でも一生懸命、今度の曲を聴いているし、彼としても精一杯やりたいのだと言った。
そうして又、二人の気持ちが弾んだ。
いい作品になるよねぇ、と一振り、二振り踊ってみてはここで衣装がこうなるね、こんな感じに最後が決まるね、と試してみて、又心が浮き浮きとした。
私達って本当は仲良しだったかも知れないという気がした。

二人の気持ちが高揚しているので、見交わした目と目がロマンティックな光を帯びて、思わず笑ってしまった。
わははーーーーー!!!!
Mirala! Como se rie,ella!!と言われてしまった。
(なんだろうねぇ、もう、こんなに笑ったりしてさ、くらいの感じ。)

バレハで踊る時は、その相手を本気で愛していると失敗してしまう。
凄く嫌いな人でも、結構やりにくい。
どちらでもない人だと、真に迫って本当に魂を打ち込んで役がやれる。
舞台では、こういう間柄の人を相手役にしてこそ初めて、情熱の役柄が真実の重みでやれるのだ。
少なくとも私の場合はそうだ。

今まで本当にいつの舞台でも、いい共演者を得ている。
私が全力投球すると全員が熱くなるのだ。
稽古の時でもこっちが気を入れて踊りこんで行くと、ラモンの目に真剣な炎が点じる。
ここがスペイン人の素晴らしい所で、日本人だと後じさり気味になる。
がっちり受け止めてくれない。私一人が隕石みたいになってしまう。

..と.......ここで思い出した。マリア・デル・マル・モレーノが、スペインでもそういうことがあると言って
この間大笑いしたのだ。
すっごい目張り入れて、別人のようにきりっと衣装着付けて、ばーん!と背も伸ばして激情というくらいのフラメンコを踊ると、歌い手が後じさりすると言うのだ。

なんであそこで引いたのよ!!と楽屋で怒ると
「だって、だってさ、いつもより大きくて、凄くてさ、なんか怖かったりしちゃって」
と言われたって(爆)

マヌエラ・カラスコがやっぱりこれでバカみたいにされてしまったし、
大昔の例ではピラール・ロペスがにじり寄ったらデイエゴ・クラベルが後ずさりしたのがフイルムに残っている。
んーーーーもう!!ダメよーーーーがっちり受け止めて!!......男でしょう、あなた達。

ところで来週はもう日本だ。

●2004年02月20日(金)

舞踊の値打ち

よく巷で聞く「踊りにお金がかかる」と言う不平に、私がいつも嫌悪感を感じるのは
かかって当たり前だからなのだ。
上白糖を買っておいて「これは白いじゃないか!」と怒るのと同じくらいにキ印だとしか思えない。
同時に踊りで社会保険とか年金とかを欲しいと思う人も、芸術家に向かないから
他の内職を求めたらいいと思う。そういう所に頭が行く事自体がもう芸がお留守の
気がする。芸術家の迷える魂の人ではないと思うのだ。くれるっていうのならもらってもいいけれど
そういうものに画策する間もないくらいに芸は本来忙しい。

それでも洋舞は邦楽に比べたらまだずっと穏便な線で済む。
ある人が名取の(なんて言うの?襲名?看板でなくて、うーーん、そういうおひろめ)ために出た舞台で
バックと師匠のお礼で一千万だったと聞いた。
社交ダンスも競技会用の衣装は100万円なんて当然なのだ。
これに比べたらフラメンコなんて本当に有り難いくらいにエコノミーだ。
ほっとする。手作りにすることだってできるのだから。

昨日は一日仮縫いで終わってしまった。
ほんの僅かな部分で思った色がなかったので、染色中だとデザイナーが昼頃言っていた。
心配だったので又、予約もしないで押しかけると物干しに染めたばかりの物が干してあった。
乾いてからでないと縫えないから明日ね、と言われた。
ー忙しいのにそこまでしてくれる?

私の衣装がボディに着せてあってとても美しかった。
どうせだから二回目の仮縫いでもしていけば?と言われてやっぱりフィッティングで直しは出る。

「ああーーーーきれい!花嫁みたいにきれい!」
すっぴんだからこれは私に対しての賛辞ではなくて、彼女の作った衣装に対してだろう。
実際に衣装デザインがいいのと生地が素晴らしいのとで、女前が三つも四つも上がる気がする。

それにしても.....こういう物がいつまでも着れるというのは踊り手の特権かも知れない。
普段はもう、本物のスポーツマンみたいにトレーニング姿だけになってしまっている。

私は最近、よく魔法にかかったような力がみなぎるのを体感する。
どんな時にかって言うと踊っている時にだ。
舞台でなくても稽古で、こう、感情が高まって行く。ある種の境地に行こうとしているのだな、と思うのだ。
それで自分はもしかしたら晩成型のアーティストで、ここからダッシュをかけてもっともっと踊らないといけないのではないかな、と言う気がしている。
うんと若い時は、色々な事が未熟で何も思い通りに踊れない。
今はむしろあの貧血ばかり起こしていた頃よりずっと健康で、力が充実して技術も悪くなくなっている。
舞踊の見識は勿論、昔と比べようもないし、やっと何かできそうな気がしている。

花嫁みたいに美しい衣装に納まっている体を見て、少し心が動いた。
一生懸命頑張ろう....

●2004年02月18日(水)

難関

昨日はついに重大な決断に直面した。
12時間考え続けて、色んな側面から見直してもやっぱり気持ちがどんどん固まって行くので
夜半、デイエゴに電話してこう告げた。

「これからラモンに電話するの」
「うん、そうだね。で?何て言う?」
「もう来なくていい、」
デイエゴは即座に
「大変、聡明」
......止めに入るかと思ったので少し拍子抜けしてしまった。

実は昨日の稽古はさんざんだった。私とラモンの激しい言い合いに発展して
デイエゴが仲裁に入らないといけなくなったのだ。
喧嘩という幼稚な言い合いではなく、制作上のだ。

胸の中にずっしりと鉛が詰まってしまって、私はあまりの苦しみにもう食事も喉を通らないし、
その後どうやってデイエゴがタマーラを伴って出かけたかも上の空だった。
そのままずっと夜まで考えに考え、苦しみに苦しみ、気持ちがどんなに冷静になっても
そのしーーんとした気持ちの底から一つの答えが結晶のように出来てくるばかりだった。

自分が岐路に立った時のいつもの道しるべだ。
こういう過程をたどった時はこの結晶の言う事を聞くしかないのを知っている。
そこまではとても苦しむし悩むのだけど、水晶が出きるのは自分の責任に於いて十分の検証をした証拠なのだ。
なんて言うか....私にはここ一番の時にこういう過程が必ず来る。

「結論は急がないで出したね?」デイエゴが加える。
「いつも石橋が崩れる寸前まで叩くの、私って」
「あの作品はどうするの?あれは惜しい、....あまりに惜しい」
「別の役者でやる」
「もしも、他の共演者に影響したら?」
「あれはお蔵入りにして別のもっと凄いのを、もっと凄いメンバーで
やる」
「時間は大丈夫?」
「本番五分前にメンバー総入れ替えになっても私は200%やれるのよ、デイエゴ」
「じゃ、オーケーだ。電話の後でまた僕に電話して。心配しているから」
.....一時間後.....

「デイエゴ....」
「どうした?」
「何もかも全部前向きで、真剣で、神妙で、インロウ渡せなくなってしまった」
ここで二人で笑ってしまう。

「彼は、振り付けにきっとショックを受けたんだね。君と言うアーティストにもショック受けたのかも知れないよ」
「そうかも知れない。一人で一生懸命稽古するって言うのだもの。そういう人に向って斧は振り下ろせないわよね?」
「うん、確かに」

ああ、しかし.....何のために性懲りもなく重い舞台をやろうかと思うだろう。
デイエゴが即座に答える
「君はそのために生まれて来た人だからだよ」
「ああ、言わないで。胸が悪くなる」

心からそうなのだ、胸が悪くなる、だ。

デイエゴは私は非凡な踊り手だと言葉を尽くして敬意を表してくれるけれど、じゃ本当に彼が言うように才能を持って生まれてきたとしても、この天分はいつも私を地獄のような苦しみに追いやる。

子供の時からこの非凡な何かのために心が穏やかに過ぎたためしがないのだ。
じゃ、普段は苦労で、舞台にあれば幸福かと言うとそうでもない。
終わるまでずっと苦しい。
本番前の辛さはまた格別で、息が止まりそうになる。
生まれて来た事さえ呪いたくなるほどだ。
私が他の日本の踊り手と違うのは、本番の舞台は今日までに10000回は踏んでるのだ。
それでも程度の差こそあれ毎回、律儀に、辛い。

終わってもなお、ビデオなんか見た日には欠点ばかり目について人生そのものが嫌になる。
ああ、何でこんな仕事をしているかな、と思う。
こんなのは仕事と呼べるだろうかとさえ思う。

自分は一体何をしているのかといつも思う。

今日のエッセイを読んだら、ちらし印刷にかかろうとしている佐藤緑が焦るだろうな、と10回は思った。
読者は公演間際まで共演者が決まらないなんて無責任と思うだろうな、と考えた。

社団フラメンコ・オーレの主宰公演は、他の仕事と違うのだ。
この舞台は絶対に素晴らしくなくてはいけない。だから舞台総責任者の私はどんな犠牲を払っても
この舞台は抜群に素晴らしいものに最後まで努力する。
たとえもう一回、違う顔写真でちらしを刷り直してもだ。
こういう責任の取り方を、私はこの舞台ではする。
まずデイエゴが絶賛し、共演者が彼らの200%を出し、私が自信を持って引っさげたものしかやらない。
プロの責任の取り方にも色々ある。この舞台は違う責任でやるのだ。

●2004年02月16日(月)

あめと鞭、鞭ばかりもらうのは主役


デイエゴはドイツ人なのではないかと思うくらいに時間に厳格で、
生徒にも相当厳しい。
五分遅れてクラスに着くと、もうレッスンは受けさせない。
2時間をふいにしてしまう。
その子が例えば学校でお残りだったり、親の車が都合悪くて着けなかったとしても斟酌しない。
私でさえ、一度バーレッスンに遅れて入れてもらえなかった事があるくらいだ。
それだけでなくて、デイエゴの怒りが体育館の端からこっちにビブラートで伝わって来て
ちょっと泣きたいような気持ちになった。

土曜日の朝のラモンとの稽古で、デイエゴは一時間も前からやってく来ていた。
私にはラモンが遅刻するのではないかという予感があったので(勿論、的中)この辺りから
心労で、最後には吐き気がしてきた。

約束の開始時間の三分前になった時、ついにたまりかねて
「ああ、デイエゴ、一分でも過ぎたら死んでしまうわ、私」
本当に胸が悪くなってしまって振り付けどころではない、額に脂汗が浮かびそうになってしまった。

いつでも複数のアーティストが集まる稽古やリハーサルの時に、私はこのように生き地獄の苦しみを苦しむ。
誰かのために予定がふいになるにはあまりに犠牲が多かったりする。
掛け替えのない時間で挽回不可能なことが多い。
次、というのが困難だったりする。
一流の人ほど時間の調整は難しく、そんなダイヤの一粒みたいな時間をセッティングするともう、した段階から緊張で眠れなくなるのだ。誰かが遅れないかと。

何分か過ぎた頃にラモンから電話。
「あと五分で着くから」
ま、これならまだ上等な方だ。遅れる時にスペイン人はこういう焦りの電話は普通して来ない。
来たら雷を落としたい所だけれど、遅れた上に支障を来たすようなことはまずはしない。
稽古が先だ。

でも今日は五寸釘を差さないといけない。だってあの日は大甘やかしに甘やかしてしまった。
主役を張るって言うのは、難儀だ。
自分が誰よりも稽古に打ち込んで独創的な何かを打ち出さないといけないけれど、
それと同量か、倍のエネルギーを人の統率に使わないといけない。

尊敬されるだけのアーティストでないと上手く行かないけれど、それの他に
甘くて優しい面も、断固譲らない部分もきちんと持っていないといけなく、
場合によって分量を匙加減しながら繰り出す。

こういうのが本当に疲れる。難儀だ。
舞台製作にこれは付き物で、避けて通る事は絶対に出来ない。
一度や二度は必ず絶望して泣かないといけない。
どんなに良さそうな人達と組んでも、これは必ず付録で間違いなくついてくるのだ。

さて、今日の展開はどうかな。あと一時間で来る。
先に稽古して問答無用、というくらいの境地に辿り着いてないと。
今週は頑張るぞ!!!

夕べはかなりいい線まで行けた。
起きた時にあれらがこぼれ落ちてさえいなければ、今朝も上手く踊れる。
こぼれてたらどうしよう、心配.....

●2004年02月13日(金)

ラモンから電話がかかってきてしまった。
後に延ばしても始まらないから、デイエゴを振り付け家として呼ぶと打ち明けた。
あなたのパートは一緒に踊ってしまっている私にはどうしても振付けられないし、と。
案外すんなり受け容れた。
ほっと胸をなでおろす。

ここがデイエゴも心配していた焦点だったけれど
昨日、電話して大丈夫だったと告げるととても喜んでくれた。

他の男の踊り手に采配されるとプライドが傷つくかも知れないし
私との関係がまずくなると大変だという危惧があったのだ。

「でも誰がデイレクションを握っているのか、にかかっているよね。君なんだから
彼にはとやかく言えないのさ。僕だって一体どれだけ納得の行かない振り付けと役柄を過去に踊らされたか知れない」
「勿論そう。ただね、くじけた心でやって欲しくないのよ。分かるでしょう?
心からやりたいと思う踊りを力いっぱい踊るのと、契約で顔をはたかれて仕方なくやるのでは結果が同じではない。私は最高のものを出して欲しいの。そのためにはどんな遠回りでもするつもり」
つまり、遠回りしても大丈夫なようにこんなに何ヶ月も前から始めている。
プロの世界では公演の一日前、数ヶ月前に一度だけの稽古で本番、なんていうのはざらなのだ。

ラモンは少なくとも電話ではとても前向きだった。
「ねぇ、出だしの所も途中も色々変えたいの。
アナライズしてみると、もっとこんな風に、ていうのが沢山出て来てしまったし
構わないでしょう?
でも来週には即、踊り込んでくれないといけないけど。」

「全然構わないよ。今週末だって、本当は少し休もうと思ってたけど君のために空けるよ。月曜だってうんと朝早くたっていい。来週全部朝は君と一緒にいられるようにするよ」

おお!!どうしてこんなに聞き訳がいい?
スペインの朝9:30て、日本の7:30くらいの威力がある。
こんなに早いとまだ霧が立ち込めている事が多い。
そしてすごく寒い。
思い出す限り、こんなに早いレッスンはスペインでは体験した事がない。
11:00でも結構みんなぶうぶう言う。

ディエゴは車が修理工場に行ってしまっているので月曜まで来れない。
私は、そんなに待ったら命がもたないという気持ちだ。
だって月曜に誰かが何かで都合つかなくなると、火曜や水曜になってしまう。

「タクシーに乗って来て。どうしても明日来て欲しい。月曜だなんて待てない」
「凄く高いよ、バカだね。僕は隣の県なんだから」
「いいってば。遠慮しないで戦車でもヘリコプターでも手配して」
どうしてもタクシーなんかもったいない。友達の車を借りると言ってきかないので
ここは折れた。

みんな入れ替わり立ち替わりして外国に出たり帰ったりしている。
本当に気が抜けないのだ。
いつ消えてしまうか分からない私達なのだ。
来週なんて悠長な事は言っていられない。
このいたたまれない苦痛と焦燥には代価がない。
コンコルドに乗ってきて欲しい。でもって機内ではスケート履いてて欲しいかも。

うーーん、この切なさは、激しい恋の苦しみにも似ている。
寝ても覚めても、だ。水ものどを通らなかったりする。

そうしてバレンタインデーの土曜日だっていうのに、私達三人は霧の立ち込める朝っぱらから色っぽくない関係の、深刻な芸術家として集まって、真面目にお仕事するのだ。
愛する人々をみんなそこらへんにうっちゃっておいて。

●2004年02月12日(木)

振り付け家


今日の朝はいい感じに稽古ができたのに
午後はさんざんだった。

アダージオが七秒だけ足りないからデイエゴに来てもらって
アイディアを移して行く筈だったのじゃなかったか....?
七秒を埋めるのでなくて、全部やり直したくなってしまった。
毛糸をほどきだしたら止まらなくなって、完成間近のセーター、全部跡形もなく消えてしまったみたいに。
編み直しだ。
結構気に入っていた始めの部分まで気に入らなくなってしまった。
午後はほどいた毛糸の山に埋もれた感じだ。

ああ、24度の春たけなわ、桜が散り始めているのに、
来た春も、行く春も知らず....
もうこうなったら、デイエゴを呼んで一からみんな振付ける。
納得して幸福だと思うまでやる。

本当にしちめんどくさい性格だと思う。
あれだってそんなに悪くないのだ。
ラモンが知ったら呆れて怒るかも知れない。

ああ、ついにここで思いあまってデイエゴに電話してしまった。
どうしても手伝って欲しいと。
デイエゴは自分のバレエレッスンが詰まっていて本当に時間が空けられない。
すったもんだして二週間後なら、なんて絶望的な答え。
そんな先ではもうなんだかんだで私は日本行きだ。
ダメ、待てない。

「来週、朝のあなたのレッスン休んでくれない?」(凄い発言!自己中心もここまで言えると神がかり)
「うーーん、僕3月に踊らないといけないんだよ」
ーそうだった!!ころっと忘れてたー
「じゃ、今週末私がウエルバ県まで行くから」
「土日か....その手もあるね。僕が行ってあげるよ、なんとかしてみるから明日まで調整待ってくれない?」
もう、遠慮なんかしていられるゆとり無し。
どこにだって出かける。こうなったら。どんな無理でもお願いしちゃう。

ああ、どうなることかな。
25日までに全部踊り込んでいてミュージシャンが全員集まる事になっている。
なのに毛糸ほどいてしまった。
踊り込みに入ってないといけないのに、材料だけの丸裸から始めようって....

でも、もう決めたから。一から編み直し。
ああ、なんだか又大海に浮かぶ小舟みたいな気持ちに落ちてしまった。
いつもこうやってぎりぎりまで自分で好き好んでこうなる。
胃がぐるぐるしてきた。

●2004年02月11日(水)

デイエゴのアダージオ

今朝、約束よりずっと早くにデイエゴが来てくれた。
つい今さっきまで稽古していた。

結論としてやっぱり彼は素晴らしい。
色々と考えさせられた。

そうして私のために一時間半も車を走らせて、朝一番で他県から来てくれたのに
お金をどうしても受け取ってくれない。
五時間も一緒に付き合ってくれたのに、自分にも勉強になったからと言うのだ。
彼はアメリカン・バレエやキューバ国立バレエに客演するくらいの踊り手で
振り付け家としても一流だから、こんな事は有りえない。
おまけにタマーラを急がせてさっさと新体操の体育館に連れて行ってしまったのだ。
僕が代わりに連れて行くからね、と恩も着せずに。

ドアの所で私が呆然としていると
「いつでも必要な時は呼んで。きっと来てあげるよ」て言うのだ。
しみじみと胸に沁みて、私はデイエゴを抱きしめた。
踊りの案が複雑な時は、どうしてもちゃんとしたプロの応援が必要なのだ。
そこら辺の人では間に合わない。本物の、相当なアーティスト。

さてと、感傷的になってないで....

ラモンと私のレッスンビデオを見せると
君って、踊っているとプロ中のプロってすぐに納得するよね、といきなりだ。

デイエゴは生で私が踊るのは見ていない。
私の事は振り付け家としてしか知らない。
あとは生え抜きのバレエダンサーに混じってさんざんドジ踏んでいるクラシック稽古中の私。
フラメンコは専門なのだもの、て今更威張っても仕方ないか。

「何だ、みんな振り付け出来てるじゃない!」
「それは出来ているのよ。ただ、一人だとやれないことがいっぱいあるんだって」

それからお互いに嵐のように振りを出し合って
もの凄い展開になった。
ああ、いいなぁ、やっぱり!!!こうでなくっちゃ!

それ!!今の凄くいいよ、もう一回やってみよう!もう一ひねり。
こうしちゃどう?こっちは?

ああ、素晴らしいなぁ。今度絶対にデイエゴとのバージョンやらないと!!
そう考えていると、稽古の後で
「ねぇ、僕の作品に出ない?一緒に仕事したいと思うけどな」
そう言われてしまって、さっきからずっとなんだか苦しい気持ちになっている。

もう彼は振り付けに入っていて三月に踊りこみ、4月の始めにプロモーション・ビデオができていないといけないのだそうだ。
3月に二週間も日本に行ってしまう私には務まらない。
彼の公演の皮切りがまた、6月と来ている。マドリードだ。

惜しいなぁ......辛い....
この感じはどんなかと言うと、失恋した時に似ている。
どこかで味わった感覚だと思い出そうとしていたら、そうだった、と今分かった所だ。

気を取り直して、稽古場に降りよう。

●2004年02月10日(火)

もう何日も一節の詩の断片を抱えて
うろうろしている。
どうしても誰の詩だったのか思い出せない。

ロルカとは思えないけれど、あんまり見つからないのでロルカの全部を
もう4晩くらい上から下から読み直していらいらしている。

次にやっぱりアントニオ・マチャドだったかなと思ってこれも三日くらい下から上から斜めから読み飛ばしている。

あ!バカねえ、もう。マヌエルの方よ、絶対に!!
というのでマヌエル・マチャドを縦にだーーーーだーーーーと読んでは失望し、失望しては道草食って、今日も夜中の一時だ。
途中で色んな凄い詩にひつかかって感心する。

でもってもう、フレーズ入れて検索に限るというので
フレーズ入れて検索してもやっぱり山のように引っかかってしまってとてもダメなのだ。
ヤフーエスパーニャだめ、多過ぎ。

日本のヤフーは?
日本語にすると情けないくらいに何も出て来ない。
スペイン、スペインの詩、なんかで本当に出て来ない。
文学者いないの?と驚いてしまった。

ロルカが殺されたのは、なんていう記事を読み、
サルバドール・ダリに捧げている詩なんか読んじゃあ、おーーー気持ち悪いーーーなんて。

それでついに全部のスペイン史に出て来る詩人から始めてしまったら
私のいつも気になっていたロペ・デ・ベガの伝記が出てきてしまった。

Su vida fue muy azarosa. En particular, una vida llena de aventuras amorosas, pues estuvo casado varias veces y tuvo muchas amantes. Fue soldado, secretario de varios diplomaticos y, finalmente, sacerdote.

本当にぃ???
にやにやにや。
この16世紀から17世紀にかけて活躍した詩人の人生は大変に変化に溢れたもので、特にその恋愛遍歴に驚嘆。なんども結婚し、数限りない愛人を持ち、兵士になり、外交官の書記官として活躍し、最後は修道士になったですと!!!
それは退屈する間もなかったでしょう、あはは。

何て言ったってスペインが黄金色だった時代の外交なのだから花形も花形、これ以上の栄華はなかったというくらいの歴史の書記官だもの。
今度読んでみよう、古典。わかるかなぁ、セルバンテスでも辟易とするけど....
セルバンテスか投獄されていたのはセビージャの目抜き通りのスペイン銀行の地下だと言われている。銀行の伯父様が見せてくださったことが昔あった。「ねぇ、恋人はいるの?」と聞かれ「結婚しているの」と答えた、スペインの一年目のこと。
あはは....ここにもいたかロペ・デ・ベガって感じです。

参ったなぁ、ああーーーいらつく。あの詩はどこだぁ、もう。
自分で書いてしまおうかな、著作権云々されることもないしね、それなら。さぁて、書けるかなぁ、15歳からこっち、書いたためしがないけれど。
ついてない、今日は私の日ではなかった。
昨日も一昨日もね。寝てしまうしかない。
明日はデイエゴだ。


●2004年02月05日(木)

デイエゴ登場


グワヒーラスが先が見えて来たので、アダージオの三コンパスが突然浮上してきた。
どうしてもこの三コンパスで悩む。
つまり七秒くらい。

二人で踊る物はどうしても振りが複雑になると一人で試せない。
ドレープの美しいドレスを作ろうとしたら、ボディに添ってピンを止めていかないといけないみたいに。

三分間のこの踊りは、起承転結が実にしっかりしていて、作曲者の才能が光り輝いている。
私はここでこう踊りたい、と言うとたちまち作ってくれたのだ。
あまり甘くしたくないと言えば、この辺りでこう展開してあげると言い、更にこの辺でこうしたいのだけど、と言えば
思いも寄らない情熱のコンパスで仕上げてくれる。

ショック!!!
暫く一人にして欲しい、と皆を追い払った。
この音楽は、胸にこたえる。
これは私の物だ。誰にも振付けて欲しくない。
で、独り占めにして日夜奮闘していたけれど、七秒間が埋められない。

ラモンが相手だと思っているのと違う絵になってしまう。

これはデイエゴでないといけない。
思い余って昨晩SOSを出したら明後日来てくれるという。
本当に有り難いと思う。

その前に困っていると言えば体育館だろうと何だろうと、付き合ってくれたし、
更に自分のビデオを子供に言付けて持たせてくれた。
プロの世界では滅多に踊り手は自分のビデオなんか人に貸してくれない。
余程の厚意と思っていい。

ビデオで見たら、デイエゴはとても上手く踊っている。
キューバ国立バレエ団に客演するくらいだから当然だけれど、しかし上手い。
私がイメージしている七秒はきっとデイエゴというボディを借りたら出来てしまうだろう。
で、ラモンに言う。
こうやりなさいって。
(すると嫌だ!!と言ったりして又、喧嘩になる.....と。)

どうしてなのかな。
私のイメージするディメンションがどうしてもラモンに伝わらない。

きっとあの人は根っからのフラメンキートだからかな。

彼は思った通りにギターを弾くのだ。
どうも始めからそうじゃないかな、と疑っていたのだ。
ギターを弾く踊り手はみんな踊り手というより聴覚に重点が行ってしまっている。
だから、舞踊家はこのグループで私だけで男ども全員は、音楽家なのだ。
こう考えると分かりやすい。

音楽を聴くとラモンはすぐにそこに入れる足とかパルマに意識が集中する。
私は空間と視覚に意識が行く。
フラメンコ的にはラモンが正しい。
でもここまでの所は私とラモンの別のアプローチがとてもいい効果と結果になっている。
私とラモンの男女と言う違いの他に、芸と個性の違いはやっぱり観客の立場からはきっと面白いのではないかと思う。
楽しみになって来ている。
第一、曲がどれも秀逸なので何回聴いても飽きない。
マルティネーテなどエンドレステープに入れて息が苦しくなるまで何回でも踊りたくなる。

デイエゴと振付ける明後日のレッスンが楽しみで仕方ない。
たった七秒を埋めるのに六時間も呼ぶ。つまり朝の九時から午後の三時まで。
おまけにその車でタマーラを新体操に連れて行ってもらえちゃう特典付き。
........とは、本人気づいていない。相当厚かましいかも。くくく。

八日にラモンがイタリアから帰って来る。
うーーーーん、楽しみ。驚く顔が早く見たい!!!

●2004年02月01日(日)

ああ、2月に入ってしまった!!!焦る。
もう七日しかない。


稽古場で振り付けをしていると
子供が何か持って来てくれる。飲み物とかお盆に捧げて。
昼過ぎに一緒にどこかに行こうと誘ってくれる。
残念だけど、と断る。
ママお休みなさい、と今度は寝巻き姿で現れると、少し悲しくなる。

無理やり引き止めて、ちょっと振りを見て欲しいと座らせたりする。
意見を求める。
小さくても結構眼識があるから参考になる。

ねむーーーい目をして、じゃあ、と行きかけると又引き止めたくなってしまう。
どっちがどっちに育まれているのか不明だ。

そんなこんなで、夕べも遅くまでグワヒーラスの第二エスコビージャを決めようと必死だったけれど
ついに決まらない。25通りの、30通りの、て勢いだ。
何と夜だけでも、三時間ノンストップで踊り詰め。
全然二度と同じ事ができない。
ものすごく楽しく踊ってしまう。
何か素敵な事ができたのは分かっても再現できない。

どうして決めれないのか考えてみた。
心の隅に決めなくていいと思っているからなのだ、きっと。

ここ近年ずっと、私は振り付けしないで舞台に出続けている。
舞台に出て、ただ踊るのだ。
これがフラメンコの本望というものだし。
これが真髄だし。

今回は少し趣向が違う。
でも、自分を違う枠におさめるのに苦労している。
こういうのもたまにはやっていいと思うのだけど、できにくい。
しないといけない、という信念に欠けるし、しない方が上等だとどうしても思っている自分がいる。

足が勝手に動いてコンパスに入っている。
何故入ってどう入っているのか検証するのは苦労だ。
最近の私の足は一拍にいっぱい入っていて細かくて、分析できない。

一コンパスに左回りの右回りの半回転コントラの静止の、ていうのが鏡に映るけれど
はて、どうやったかな?と呆然とする。
後で思い出せるまで何回もやってみようとしているうちに、次々別のが出てきて気が狂いそうになる。
ああーーーー絶望する。
頭悪くて暗記できない。

今日こそ、ちゃんとしたい。いい加減にして欲しい。
太陽を浴びないと!!

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