●2010年03月22日(月)
寄宿舎ーアーキテクト やれやれ スペインで大掛かりな建築工事は本当に骨が折れる。 去年の暮から内装のデザインを頼んでいるのだけれど中々出来てこない。クリスマス明け、あと一月、あと二週間と待たされてしまう。もっとも市からいよいよ工事の許可が降りるまでの期間ずっとかかってもいいのだから 急がないけれどそれにしてもお尻を叩かないと中々出来てこない。 19世紀のロマンチック様式なので これをいじるつもりはない。 タイルは有名なあの時代の物だし、もうどこにも見つけることができない代物らしいから これは保護しないといけない。 美しい大理石の螺旋階段があって これもいじってはいけない。 美しい中庭もいじつてはいけない。 いじってはいけないものばかりだから どうせ間取りはそうは奇抜な変化は仕様が無いのだから 私にだって図面が引けてしまうくらいだ。もう 建築家がぐずぐすしているので 明日もう一人の建築士とともに図面引いてしまおうと示し合わせている。 そうしてデザインしてしまって あとは守らないといけないノルマに照らして精査しなさいと 最後に手渡せばいい。 スペインに住む30年の間に一体 幾つの図面やら家具やらキッチンのデザインをしただろうかと思う。 人に頼まれたりもしたから10件でも足りないかもしれない。 私はこういうことが とても好きで踊り手にならなかったら この方面の仕事をしていたかもしれない。 まだ大工が出入りしていないうちは 何の問題もなくて図面と打ち合わせと広がる夢だけなのでとても楽しい。 いざとなって土木のどろどろ ダンプの出入りが始まってみると結構きついことが出てくる。 けれども 今度の工事はとても上手く行くような気がしている。 直接手は出してもらえないのだけれど 知り合いの建築家がアリカンテというバルセローナに近い都市にいて、メールや電話で色々なアドバイスをしてくれる。利害の無い第三者として専門家がついていてくれるのは有り難いし 心強い。 ぐずぐずしているけれど主任の建築家は 古い建物の専門家でセビリア大学の教授でもある。多くの賞を受賞していて広く内外に名前が知れ渡っているベテランだ。 最後には いい仕事をしてくれる頼りがいのあるプロだと思っている。 屋上にある部屋とバスルームが少し傷んでいるのでリフォームしないといけないのだけれど、この屋根瓦は私から見ると別になんてことのないただの瓦で とちらかというとなんだか古くて汚いから新しいのと取り替えればいいと思っていたのだけれど なんかとんでもないらしい。 つまり100年以上前のアラビア瓦と言う種類の 由緒ある瓦なんだそうだ。これは丁寧に一度外してからまた取り付けるだけの価値があるのだと言う。 言われてみなければ分からないものだと 舌を巻く。 そういえば グラナダの「アルハンブラ宮殿の瓦が欲しい」と本気で言っていた建売業者の女性社長を思い出す。あの瓦と似ているな。 この家には本当に美しい 19世紀の建築の粋が込められている。 リフォーム成ったら どんなにか嬉しいかと思う。 私も無知で驚くことが多いのだけれど やっぱり日本のように何でもすぐに新しい物とすげ替えてしまう文化とは随分違うということを痛感する。 新しくすることに まず市役所が承知しない。 文化財として指定する国の組織が出て来て調査と認可を検討する。 中々にめんどくさくて うるさいのだ。けれどもこういう姿勢が古い中世の町並みを守っている。 美しい螺旋階段や中庭に施された鉄の飾りやアラベスク模様は もう今の時代では作れない重厚なデザインと威厳がある。 ボロでどうでもいいと思っていた入り口の木戸も、100年も前の木材だから絶対に修理して使わないといけないのだと言われた。又、新品のようにしてくれる職人というのが今も健在で 私の目から見たら捨てるしかないみたいなドアも 建築関係者に言わせるととんでもない、こんな立派な物を!!と非難されてしまう。 自分が知らない世界の人たちとこの先二年に渡って色々教えられて過ごすのは有意義なことだと思う。 人生どの角を曲がっても そこで素晴らしいプロに出会い、知らなかった世界を展開してもらえるものなのだ。 知らない物への憧れと尊敬、柔軟な好奇心というものをいつも持っていられるように自分を励まそう。 めんどくさいって思うことだけはやめなくては。 色んな発見に幸福を見出して生きよう!!
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