スペイン発不定期便〜友繁晶子フラメンコ・バレエ・アカデミー
スペイン発不定期便
Copyright(c)1999-2004 Akiko Tomoshige .
All rights reserved.
|
|
スペイン発不定期便
― 気の向くままにちょっとエアポケット ―
第6回
村治佳織さんを迎えて…の巻
この所、テレビの仕事が続いている。 松坂慶子さん主演のCMの振り付け、 自分自身が
CNNのドキュメント番組に出たり、 今週末は日本からロケーションを組んでやってきた、
TBSの「情熱大陸」の、 フラメンコとの融合シーンのお手伝いだ。
弱冠20才にして クラシック・ギター界では
ソロアルバム200万部突破という! 村治佳織さんを取材した番組だ。
美しいセビージャの街を訪れた村治さんが、
ジプシーのフェルガで ジャンルを越えた合奏シーンを展開する。
その後のグラナダ訪問も 夫の録音スタッフ全員が同行し、 コーディネイトしている。
夫の率いるレコード会社、 O・F・Sの本拠は フラメンコのメッカ、セビージャでも
とりわけ中心となっている トリアーナ地区にある。 そのトリアーナの中でも知る人ぞ知る、
フラメンコの歌聖と言われた アントニオ・マイレーナや、 きら星のごとく名を知られた
数々のアーティスト達が出没した 由緒あるペーニャ・トリアーナの跡地に、 当時の面影を残した 広い中庭に面して建っている。 フラメンコのドゥエンテ(黒い妖精)が 地面から
はい上がって来るようなところだ。
ここで今、世界中から注目されている、 ソロ・コンパスシリーズは生まれている。
録音スタジオの他に 踊りの練習スタジオがある。 最近はこれに加えて小さな
コンサートスペースも出来上がった。
朽ち果てた白壁をそのまま生かし、 床には闘牛場の黄色い砂を敷き詰めてある。
小さなタブラオ(踊り用の木のステージ)の脇には、 カディスの酒造元から
特別に譲ってもらった 年代物の酒だるが ドーンと3つに組んで 並べてあるのだ。
直径140cmの大きなたるで、 一つにつき、750リットルのワインが 入るそうだ。
赤サビの出た前世紀初頭のランプなどが、 まるで100年も前からここにあるような
自然さで 味わい深く吊り下がっているのだが。
これなどは皆、 アンティーク家具店を 根気良く回って集めたものだ。
撮影が順調に終わったこの日、 まだ2月とは言え、 24度の暖かさでとても気持ちがいい。
午後の陽射しが 高い天井窓から斜めに差し込んでいて、 たくみのない自然光が
ステージのそれより アーティストの感受性に何かを呼び覚ます。
本番では、私や子供達が画面に映っては大変なので、 庭に出て、息を潜めて(!)いたのだ。
だからデリケートな村治さんの演奏は楽しめなかった。 スタッフの悲しさだ。
(土曜日だから内の小さな娘達もやって来ている。)
「残念でした。」と一言言うと、 「え?そうでしたか?」と、 ちょっとびっくりされ、
「では、これから少し弾きます。」と、 いとも気さくにギターを取って 次々に演奏してくださった。
お話していても とても素直でかわいらしい若い女性で、 セビージャは思っていたよりも
ずっと楽しいと 繰り返していらした。
ステージに射す自然光も、 本番後のゆったりとした雰囲気もすばらしく、
村地さんの演奏がますます冴えてきたものだから、 すっかりしまいこんでしまった機材を
スタッフがまた降ろしてきて撮影を始めた。 村治さんの美しい「アストゥリアス」や
ロドリーゴの曲のあいまに、 庭をはさんだ向こうのフラメンコスタジオから
練習中の誰かの足音が かすかに聞こえてきて なかなか良かった。
「これぞアンダルシア」という雰囲気だ。
3月の放送と聞いているので、 このエッセイがアップされる頃には、
春めいた美しいスペインの風景と 村治さんのすばらしい演奏が楽しめることと思う。
それにしても毎年の事ながら、 ここではいつも寒暖の差の激しさに驚く。
セーターからいきなりノースリーブになる、 と人々が言うくらいだ。
昨日の午後、なんだか暑くって 頭がボーっとすると思ったら 30℃の表示が街角に出ていた。
まさか!と思っていると、 今日は34℃になっているではないか。
それでいて 朝方はまだ10℃だったりするのだ。
3月初旬より 日本で集中レッスンが始まる私は、 ついつい春物を
パッキングする気になってしまう。 一応日本に電話を入れてみたら、
「レースのカーディガン? とんでもないですよ。 今日からまたすごい寒波で、 先生の集中の頃に
雪が降らなければいいなぁと 心配しているくらいですよ!」と、 マネージャーにどやされる。
「!」 受話器を握り締め、 まぶしい窓外のアンダルシアの太陽に なんだか目をパチクリする私でした。
…じゃあコートも持っていくか…。
|