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フラメンコ・オーレ!

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スペイン発不定期便〜友繁晶子フラメンコ・バレエ・アカデミー
スペイン発不定期便

第42回 どうせ日本人だからって気持ち...
第41回 舞踊、観客に問う物
第40回 宝石と語り合う思い
第39回 踊りの資格
第38回 舞踊、怪物が出てくるまで
第37回 瀕死の白鳥
第36回 雨に降り込められ、泥くさいフラメンコの考察
第35回 アントニオ・バイラリン
第34回 水面下の落ち込み
第33回 わわわ!ホセ・アントニオ様!!
第32回 ビエナル、思い出したこと
第31回 ビエナル、そんなに素晴らしい?
第30回 バレエ・ナショナル・デ・エスパーニャ
第29回 お見それしました!……
第28回 集中レッスンの最中で……
第27回 言い訳けがましいですけど……そんなに悪い母でもないです
第26回 すごいアーティストの考察
第25回 集中レッスンの受け方
第24回 透き通ったアカデミー
第23回 フラメンコの原点、についてまずわかりやすく
第22回 夏の過ごし方、のつもりが夏休みで脱線、まぁいいかしらん?
第21回 名刺がわりに、子供を出す国
第20回 43℃で熱血お稽古
第19回 フェルガ・ヒタ−ナ、ファミリア・フェルナンデス
第17回 集中レッスンびっくり箱!
第16回 汽笛一声、文明開化だ、セビージャは!・・・
第15回 バルセローナ!・・・
第14回 いばりん坊・・・
第13回 またもや、フェリア、ああ、されどフェリア・・・
第12回 フェリア、ああ、されどフェリア・・・
第11回 スペインと日本の狭間 まじめにお仕事
第10回 バック・ミラーに気を付けろ!
第9回 気になるあの人・・・
第8回 不定期便の前後
第7回 イスラエル ガルバン
第6回 村治佳織さんを迎えて・・・
第5回 セビージャから愛を込めて−失意の底に居る人へ
第4回 本当に本当に本当のことよ!
第3回 集中レッスンを終えて
第2回 新人公演・カンテ出場裏話
第1回 バレエ

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スペイン発不定期便

― 気の向くままにちょっとエアポケット ―

第10回 「バック・ミラーに気を付けろ!」の巻


 庭に色とりどりのバラが咲き乱れて、
ああ、春なんだな、
と嬉しくなる。
今日はその上に、
濃い紫のあやめが、
見事な美しい花をつけて
門先にりんとしていた。
この間のものすごい大雨で
緑が一気に萌え出した。
私が丹精して育てたすいかずらは、
もう、手におえない勢いで
生け垣からこぼれ出て剪定を待っている。
もう、専門家の手を借りるしかないとわかっていても、
せっかく自分の手で作ってきた庭なので
決心がつかない。

 いつか、日本から人が訪ねてきた時に、
「わぁ、これだけの庭があれば十分野菜が自給自足出来るのに!」と、
私に更なる努力をせよ
と言わんばかりだったけれども、
私は内心大いにあわてた。
いえ、もう花だけで手いっぱい。
料理好きだから、
キッチンに立てば滅多に手は抜かないし、
駄文を書きなぐり、
毎日のレッスンもまぁまぁ怠らず、
年中飛行機に乗ってあちこち飛び回り、
舞台で別人のような姿で踊り、
人を育て、歌手の振り付けを担当し、
花を愛でて、、、
ああ、これ以上はとても駄目よ。
「しかしねぇ、もぎたての野菜は素晴らしいよぉ・・・」
なおも追及の手をゆるめない。
「いやっ!もうこれ以上はとても無理っ!!」
庭仕事に割く暇さえないものだから、
あんまり心にかかってくると、
思い余って真夜中にサーチライトで照らしながら、
花の世話をしてしまうくらいなのだもの・・・・・。
この上お百姓になれと言うのだけはやめてほしいなぁ・・・ねぇ?

3月の初めに、真夏のような34度を記録したが、
また冷え込んで一時冬に逆戻りした。
スペインの春は、
真夏と真冬が毎日交互にやってくるから
かなり用心しないと
たちまち体調を崩してしまう。
この気候の激しさは
国民性に良く反映しているといつも思う。
とにかく空がパァーっと明るいから、
怨み事も、憂鬱な気分も長続きしない。
明るく、楽天的であるというのは、良い事だ。

 このところ、春祭りが近くなり、
季節がよくなったせいか、
日本や外国の集中レッスン生から
じゃんじゃん電話やFAXが来る。
・・・・スペインに来るって言うんですよ。
 短い滞在だからホテルにするとか、
長い滞在だからアパートホテルにしたいとか、様々。
みんな一様に
「先生に迷惑かけちゃわるいから、
ホテルの電話ナンバーだけでも、ください。」
などと、一応はしおらしいのだけど、
この季節、簡単に空室なんか、おいそれとは出てこないのだ。
怪しいスペイン語でやりとりしたって埒はあかないのだ。

 はいはい。マミィが予約してあげますよ。
まちがいがあるといけないから、
内金も立て替えてあげましょうね・・。
「ヘレスで、ジェルバ・ブエナの公演あるって
パセオに書いてあるんですけど、
チケット取れますかねぇ・・・」
これだものねぇ、
チケットなんか取れたって、
この時期、ヘレスは有名な馬祭りだ。
ホテルなんか超満員で1つも取れやしないのよ!
「いえ、泊らなくっていいんです。
見たら帰ってきますから・・・・」
あのね、スペインは、公演、イベント、夜の9時過ぎから始まるの。
真夜中に終わるから、
電車も、バスも、下手したらタクシーもないのよ。
始発の電車が出るまで
外で震えていないといけないのよ。
「えー、本当ですかぁ!?どうしよう!」

 傍で電話のやり取りを聞いていたOFSの社長が、
人道的、博愛者的性分で助け船を出してくれる。

その上、週末はカディスやカルモーナといった
フラメンコにゆかりの深い土地に
ドライブに連れ出したりしてやるのだけれど、
その時に窓の外を指差して、
「ほら、あれがカマロンのサン・フェルナンド島だよ!!」
感激の声を期待して夫が説明してやっても、
生徒の方はボォーっとしていたりする。
「カマロンだよ、カマロン!天才カンタオールの。知ってるでしょ。
パコ・デ・ルシアと子供の時から組んでいた・・・・」
「はぁ・・・・・」と生徒の心もとない返事に、
「えっ!?まさか、パコ・デ・ルシア知ってるよねぇ。。」
語尾のあたりで、
夫の鋭い視線が
バック・ミラー越しに私を射殺す。
「一体何を教えてるんだ、お前は!」
の激しい叱責がこもっている、
無言の真空状態にあえぐ私。
たじたじたじ・・・・・。
あの、この子はフラメンコ始めて、
まだほんの数ヶ月だから・・・・。
普通のOLでただ踊りに憧れて入会したばかりなのよ。
まだこれからなの、
いろんな勉強は・・・・。
なんか冷や汗が出てきてしまう私。

 別の生徒の時も、あの、
素晴らしいカルモーナに
わざわざお食事に連れていってあげて絶景を前に、
「ほら、ここがラ・カーニャの歌詞に歌われている、
カルモーナの村だよ!」って言ったって、
本人ボッケボケ。
こっちは上級テクニカ生だ。
言い訳が立たない。
「ラ・カーニャ、集中レッスンでやらなかった?」
・・・そう、あなたの御好意で、
発売前のCDまでいただいて
いち早く開講したクラスでしたが・・・・。

・・・・・かくしてマルチェーナに行っても、
アントニオ・マイレーナの故郷に連れていっても、
「なんとかに真珠」になってしまって、
私は消え入りそうになる。
もう、いやぁねぇ、本当に。
フラメンコの基礎の基礎!!
という小冊子を本気で作らないと・・・。
せめてこれぐらいは、
スペインに来る飛行機の中で
おさらいしてきてくれないとねぇ。
バック・ミラー越しに
何度も殺されちゃうのは、かなわないもの・・・・・・。

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