今日からフェリアが始まった。
早速出かけてずぶぬれになって帰ってきた。
スペインに渡って初めてのフェリアの時に、
マノーロ・マリンが
「雨にたたられない年が一度もないんだよ。」
と、言ったが、
以来確かに21回目の今回まで
この言葉はまったくの真実だった。
でも、もしかして、
今年こそからっとして楽しいかも・・・
と期待してしまうのだから、
私の日本人離れもいよいよ本格的というべきか・・・・。
フェリアの開催日は毎年違う。
セマナ・サンタ(聖週間)が終わって
1週間してから続けて1週間の春休みになると決まっていて
この、セマナ・サンタがいつになるかによるからだ。
セマナ・サンタってなぁに?の人のために、一言。
キリストの復活の聖金曜日を含む前後1週間の事。
これが、いつなのかが、また厄介。
春分を過ぎた初めての満月の
次の日曜日から始まるのだ。
この日曜日から数えていく1週間が、
つまりセマナ・サンタ。
いつもは3月の21日前後なのだけれど、
今年はなんと4月の終わりにかかってしまったので、
本来、4月と決まっているフェリアが
5月になってしまったのだ。
満月次第で、こうなる。
スペインってこういう国。
ちょっと考えてみると、
1週間のセマナ・サンタにフェリア、
つまりこの間にはさまれた1週間も
お祭りとお祭りのサンドイッチだから
どうでもいいような、
いい加減な気持ちになる。
合計3週間だ。
その前後もなんとなく浮かれて、
いい加減な気分になるか、
あるいは他人がそうなんじゃないかと、
疑うのでまったく仕事にならない。
しめて1ヶ月の停滞。
郵便は大幅に遅れるか、紛失する。
納品は遅れ、集金はごたつき、
社会の機能が麻痺してしまう。
・・・・何十年暮らしても、
私はきっとこれになれることができないと思う。
毎年、この季節はおそろしく憂鬱になる。
学校は生徒の痴呆化を目指せといわんばかりに
続けざまに休みになり、
銀行だって午前中だけか、
あるいは休みになってしまうのよ!
小切手は換金できず、
トラベラーズ・チェックが使えなくて泣きを見る外国人は
ひきもきらない。
もちろん、あらゆるレッスンが休みになり、
私なんて、バレエの振替が今月、11レッスンになってしまった。
とても振り返られるものじゃない。
急病になったら、覚悟を決めないとね、
つまり助からない、と。
それでも、大方のスペイン人は、楽しいらしい。
私は楽しくない。
いい加減、脳みそが腐りそうになる。
1ヶ月、何もかもが中断してしまうのだもの。
その後続きをやりましょう、とはならない。
だめになってしまうことがいっぱいある。
何をそんなに目くじらを立てて!と、思うでしょう?
だってねぇ、この間クリスマス休暇が終わったばかりなのよ!
スペインのクリスマスって、1月の16日まで続くのだからね!
・・・で、2月にも連休があるのよ。
その上、仕上げがこれだもの、
肝が太くないと生きていけない、
この国には。
コンスタント、と、いう言葉は見つからないのだ。
ちなみに前回愚痴った、新スタジオの設計図なんか、
もう、6ヶ月目に入ってしまった。
「じゃあ、なんですから、
またフェリアの後にアポイントとってくださる?」と
言う秘書に、
つい言ってしまった。
「いいえ、フェリアと言わず、
夏のバケーションの後でも、
クリスマスがすんでからでも結構よ。
好きなだけ推考を重ねてくれるようにって、
カルロスに伝えてちょうだい!」
で、もちろんカルロスは
(凝り性の私の建築家。
谷崎潤一郎の西訳本なんか
くれたりするのだ。
建築について書いてあるとか言って)
この伝言を聞いても電話なんかして来ない。
いやだものねぇ、フェリアなのに、
呼び出されたりするのは!
全部終わってから
「どうしたんだい!ずっと電話していたんだよ、
まったく君という人は多忙でつかまりゃしない!!」と、
しらばっくれる事に僕ちゃんはきめてるのだ。
この話を衣装屋で、
仮縫いの時にしたら、
デザイナーはへらへら笑いながら
「だから、言ってるでしょう、いつも。
ここはね、こういう国なんだからさ、ね!
ドイツに住みなさいよ。あそこは人が真面目だってよ!」
と、やられてしまった。
そのくせ、デザイナーにしたって、
期限の約束を守らない上に、
決めたのとぜんぜん違うデザインに仕立ててしまって、
強情を張ることも年中なのだ。
それでも私は彼女が好きだし、
腕も認めているので、
片目どころか、
両目をつぶることにしている。
一緒に笑いあって年中楽しい冗談を飛ばしているのだ。
衣装の仕上げの期限だけは、二人でウソをつきながら・・・・。
「これ、絶対に来週には仕上げてよ、
舞台なんだから、次の日。」と、私。
「だめよぉ、とてもやれないわ!
本当の公演日言いなさいよ。
15日ちょうだい。」
「だめ!10日!」
「12!」
「11!キリストと聖母に誓ってよ!絶対に守ってよ!」
「アキィ、私が約束守らなかったこと、ある?」
・・・で、私のウソを見抜いている彼女は2日くらい遅れるのだ。
きっとそんなことだろうとふんでいる私は、
それでもまだ3日は余っている。
時々裏の裏をかく彼女のせいで
本当に間に合わないこともある。
だから、いつも余分に前もって作ってある。
ここに住んで得たものは何か、と人に問われるまでもない。
滅多に怒らなくなったことと、
かなり許しがたい欠点に
片目をつぶれるようになったことだ。
これだけはあの、すばらしく機能する国に住んでいたら
決して身につかなかった宝物かもしれない。
夜中の12時だ!
初日の真夜中には、フェリアの正門に
いっせいの明かりが点るのが
恒例なのに、
ものすごい雨になってしまった。
明日は晴れるかな・・・・。