フラメンコ・オーレ フラメンコファンと練習生を一挙にスペインへ!
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フラメンコ・オーレ!

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スペイン発不定期便〜友繁晶子フラメンコ・バレエ・アカデミー
スペイン発不定期便

第42回 どうせ日本人だからって気持ち...
第41回 舞踊、観客に問う物
第40回 宝石と語り合う思い
第39回 踊りの資格
第38回 舞踊、怪物が出てくるまで
第37回 瀕死の白鳥
第36回 雨に降り込められ、泥くさいフラメンコの考察
第35回 アントニオ・バイラリン
第34回 水面下の落ち込み
第33回 わわわ!ホセ・アントニオ様!!
第32回 ビエナル、思い出したこと
第31回 ビエナル、そんなに素晴らしい?
第30回 バレエ・ナショナル・デ・エスパーニャ
第29回 お見それしました!……
第28回 集中レッスンの最中で……
第27回 言い訳けがましいですけど……そんなに悪い母でもないです
第26回 すごいアーティストの考察
第25回 集中レッスンの受け方
第24回 透き通ったアカデミー
第23回 フラメンコの原点、についてまずわかりやすく
第22回 夏の過ごし方、のつもりが夏休みで脱線、まぁいいかしらん?
第21回 名刺がわりに、子供を出す国
第20回 43℃で熱血お稽古
第19回 フェルガ・ヒタ−ナ、ファミリア・フェルナンデス
第17回 集中レッスンびっくり箱!
第16回 汽笛一声、文明開化だ、セビージャは!・・・
第15回 バルセローナ!・・・
第14回 いばりん坊・・・
第13回 またもや、フェリア、ああ、されどフェリア・・・
第12回 フェリア、ああ、されどフェリア・・・
第11回 スペインと日本の狭間 まじめにお仕事
第10回 バック・ミラーに気を付けろ!
第9回 気になるあの人・・・
第8回 不定期便の前後
第7回 イスラエル ガルバン
第6回 村治佳織さんを迎えて・・・
第5回 セビージャから愛を込めて−失意の底に居る人へ
第4回 本当に本当に本当のことよ!
第3回 集中レッスンを終えて
第2回 新人公演・カンテ出場裏話
第1回 バレエ

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スペイン発不定期便

― 気の向くままにちょっとエアポケット ―

第32回 「ビエナル、思い出したこと」巻


  メルセデスが訪ねて来た。
この人は生粋のトリアーナ育ちだが、
今は私と同じセビージャの西に位置する
丘の上に住んでいる。

忙しい私の代わりに、
色々なフラメンコ関係の買い物をして
届けてくれる。

つまり、そういうお仕事をお願いしている人だ。

日本のフラメンコの小物や衣装を扱うお店には、
本当に申し訳ないが、
生徒が必要とする物は

みんなスペインから送ってあげている。
ここまで面倒を見るのはとても煩雑だが、
適当なお店で
好きなものを買っていらっしゃいと言うと、

とんでもない事になって
結局二度手間になるのだ。

マントンを買わせれば、
大きさとか素材が
使いものにならないのを買ってきてしまうし、

衣装も、流行遅れで丈も合っていないようなのを
押しつけられてくる。

衣装屋さんに出張してもらって
私が立会いで発注すればいいのかもしれないが、
これもまた大勢だと
日を決めるだけで大仕事だし、

帰国中にそんな悠長な事はやっていられない。

だいたいが日本の衣装の基準と
セビージャの方でメジャーになっている通念が
微妙にずれるのだ。

せっかくだからこの場で提起しておく。
脱線を許して欲しい。

 私の集中プログラムにある、
「バタ・デ・コーラの基本テクニックと応用」
に参加する人は、

クラスが始まる前に
練習用のバタを購入してくる人が多いのだが、

これが使いものにならない事が多い。

日本で市販されているバタの多くが、
スカート丈が短すぎる。

バタは、両サイドの
ちょうどくるぶしに当たるところに
スカートがないと

(つまり、この位置に届かない丈だと)
扱えないのだ。

業者の不勉強だと思う。
誰かこの業者に教えてあげて欲しい。
結局営業の妨害をするようで心苦しいが、
練習用のバタはかなり高価だし、
その割りに
全く使い物にならないような代物では

生徒がかわいそうで
とても黙殺できない。

それでも、もう、三年も言わずにいた。
買う方も注意して欲しい。
スカートの丈が決め手だ。

次に、スカートの内側に
表側と同じボリュームの

フリルがついていないといけない。
ひどい業者だと、
表は麗々しくフリルが沢山ついているのに、
内側はあろうことか皆無なのだ。
こんなものは絶対に買ってはいけない。
ついでに日本のフラメンコ向上のために
業者に注意してあげて欲しい。

バタデコーラの技術は、
遠心力と密接に関係している事が多い。

スカートをはさんで、
裏と表の分量の釣り合いが

きちんと合っていないといけないのだ。
表だけにフリルがついていると、
よろよろになってしまうので
年中スカートが裏返ってしまう。
自分の技術が未熟なのか、
衣装が粗悪なのか
わからないようでは
訓練にならない。

下手なうちほど、
自分以外の全てが
一流基準の優良品でないといけない。

つまり誰のせいにもできない、
という条件で鍛えないと、

何者にもなれないのだ。
下手だからこれでもいいや、
まだ私なんか、ではない。
上手かったら、
周りがどんなガラクタだろうと
上手いのだ。

それでもやっぱり裏なしのバタは願い下げだが。

うっかりして、私のこの文章のために
きちんとした仕上げをしている業者が
迷惑するといけないので
ここに二つの例外は明記する。

日本のバタの中で、
この三年間で見た中では

(全て見た訳ではないから、そのつもりで)
ナジャハウスとマキズコスチュームのバタが
良心的に作ってあるようだった。

 非常に勇気ある横道をしてしまったが
(私を贔屓にしてくれている人達がはらはらする。
無用の恨みを買ってしまうと)、

話しを元に戻す。...

つまり、メルセデス。
ベンツでなくて私の友人の。

この人は自分は踊らないが、
大変なフラメンコ・ファンだ。

おお、スペインにも居るんですか、
フラメンコ・ファン?
というくらいのものだ。

(これ、脱線の上に更にちょっとパロディ。
いい加減にしろ!と叱られるゾ、読者に)

かなりの目利きなので
彼女の批評には私は一目置いている。

「どうだった?ビエナルは?」と私。
しばらくあれが良かった、
これがまずかった、と
いう談義になってから
おもむろに、
彼女に私が尋ねる。

「....で、イスラエルはどうした?」

「Ohhhh!」と言って
おおげさに顔をそむける。

次に目をむいてみせる。
ははは、こっち独特の
どうしただって?
聞くだけ野暮というものよ、
いう感情を表している独特のしぐさ。
どういう意味?良いの?それとも悪いの?
いうのは
この後を見ないとわからない。

どちらにしても、「ものすごい」という事を
まず強調し、
相手の注意を惹きつけるのだ。

さぁ、出るぞ、次に結果が.....

「あなた、見なかったの!?」......
スペインにいなかったんだもの、と答える私。
「ホント!!それは不幸中の幸い。
とんだ命びろいだわよ。
神に感謝しなさいよ」と来た。

ただならぬ展開。
なんだ、なんだ、この調子だと
相当ひどかったみたいじゃないの。
何が、どうして?

「あなた、あの人何をやったと思う?
カフカよ、
あの辛気臭いカフカの変身なんかやっちゃってサ、
気でも狂ったんじゃないの、
あんな事してたらもう、お終いになるわよ」

おお、大変だ。
そりゃあお終いになるだろう、
どうしちゃったのよ、イスラエル君は。

「変身」で何をやってたのかしら、とつぶやいたら
メルセデスがすかさず言葉をとらえて
追い討ち攻撃。

「何をだって?
三時間にわたってゴキブリをやってたのよ、彼は。

もう、あのマエストランサで!!
観客はイスから立ちあがりたくて死ぬ思いだったわよ。
ビエナルであんなバカなものやって!」

カフカの変身って、ゴキブリだったっけ?
まさかねぇ...
私はあの手の小説家は手が伸びないのだ、
中学の時にゴーゴリの「死せる魂」を広げて
胸が悪くなって以来、
あの辺りの小説は苦手なのだ。

だけど、カフカなんて
セビージャで

一体、どれだけの人が読んでいるというのだろう。

「フラメンコ」のビエナルで
そんなものをやったら、
自殺行為に等しい。

伝聞で批評しちゃあいけないけど、
題を聞いただけで
憂鬱にも
メルセデスの意見を疑う元気が出ないな―。

まぁ、何かを求めてさまよっているのでしょう。
イスラエルは、ホアキン・コルテスにも、
アントニオ・カナ―レスにも、
ハビエル・バロンにも全く似ない、

独特の何かを樹立させたいのだろうな、多分。

二度目の失敗は回避して欲しいな。
この次やったら、見捨てられてしまう。
フラメンコの観客は、シチメンドクサイ理屈物が嫌いだ。
ついでに私も嫌いだ。
だから常に危険が伴うモダン・バレエの公演は
慎重に避ける事にしている。

男性が背中に滑車をくくりつけて舞台に登場した、
ひどい内省的な作品を見てからは特に。

 それで思いだしてしまった。く、く、く。

もう、五、六年前の、
場所は同じくセビージャの、
オペラ・ハウスとして名高い

マエストランサ劇場で、
クリスティーナ・オヨスが
振付師としては

極めつけに高名な
ホセ・グラネロの「5人の女」に出演した。

衣装もモード界では第一の
ビットリオ・イ・ルッキーノが

特別にデザイン!
と盛んに宣伝していたので、

期待で胸がはちきれんばかりになって見に行った。

劇場の入り口では
セビージャ中のアーティストの顔を
残らず見かけた。...

そして幕は開いたのだ、
みんなの期待を浴びながら。

 さて、次に何が来るか、
読者の皆さんも期待でいっぱいになって下さった?
結論はですね、言わずとしれた駄作でしてね、
私は公演が終わった後
とてもまっすぐ家に帰れず、

見ていた時間のニ倍の時間を
食事とシェリー酒と、

「信じられない」を繰り返す友達と共に
過ごさないではいられなくなりましたよ。

「あんなものを見せられた日にゃあ、
お酒の一杯二杯ではとても癒されませんや、旦那」、
という鬱々とした気分に陥りましたね、まったく。

 幕が開いて、「いや、これは様子が変だぞ」という
嫌な予感がした。

でも、この不吉な予知能力を
私は必死に押しやったのだ。

だって、まさか、クリスティーナが出るものなんだから、と。

それから重ねる忍耐の一時間後、
舞台に置かれた洋服ダンスを

判事物のように
さんざんじっとみつめさせられて、

ああ、と溜息が出た途端、
おもむろにタンスの戸が開き、
中からシュミーズ姿の女性が
傘をさして登場した時は

もう、自分の予感を疑った愚かさを呪っていた。

全編、この種の憎悪すべき奇想と舞踊に満ちていたのだ。
でも、頑張った。
そのうちきっと
全てを忘れさせてくれるような

クリスティーナの
見せ場があるに決まっている、と。

けれども、最後は
クリスティーナ・オヨスが
大声でわめきながら

砂山を掘り返す場面で
幕切れになったのだ。

犬のように両手で砂を掘って!!!
発狂したかのように延々と。
ぎゃおー、ぎゃおーと。

あのフラメンコの素晴らしいクリスティーナが。
いつまでも、いつまでも、わめきながら、
砂を両手で掘り続ける様は圧巻というより、
見てはいけないもののように、
後ろめたいものがあった。

 あまりの事に2000人の観客の一人として、
これで最後だと思わず、
誰一人として拍手しなかったくらいだ。

おそらく関係者が誘い水的に一人、
後方で拍手して
もうお終いなのだという事実を、

痴呆化してしまった観客に知らせ、
皆は催眠術にかかったように
これを模倣したが、

魂はそこいらの虚空をさまよっていた。

見物だったのは、
これだけの観客が
次に一言も口をきかずに

ロビーに出て、
そしてそこに佇んで、
動けなくなった光景だった。

マティルデ・コラールが呆然と立っている。
エル・ミンブレが、今のは何かのまちがいで
これから始まるんだろ?
という顔をして立ちすくんでいる。

誰も何も言わない。
自分がペテンにかかった事を認めるのは、
辛いものだ。

一拍遅れる。

 舞台というのは生き物だから、
こんな事もたまにはあるさ、
という訳だ。

今でも
あれは夢の中の出来事だったのでは

ないかしらん、
と思うくらいだ。

 さぁて、買っちゃった切符を返しにいかなくちゃ、
面倒くさいなぁ。
ビエナルの最後を飾る筈だった
ホアキン・コルテスの日が
ドタキャンになったのだ。

ギャラでもめたかな?

日本の生徒から
「ホアキン・コルテス見ました!すばらしかったです!!」と
いうメールが到着。
本当に?チケットが高かったから、
なんだかやたらと世界中で有名だから、
そういう意識が
もしかして点を甘くしてない?

はだかの王様発言は、勇気が要るから。

今度帰国したら
その辺をよぉぉく確かめてみなくちゃ。

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