夏のフェスティバルの中でも面白いのが、
お料理の名前のついた
三つの村のフェスティバルだ。
すなわち、
モロンのガスパチョ、
レブリーハのカラコーラ、
ウトレーラのポターヘ、
このすぐあとでまたやる、ポターヘ・チコ
三つともスペインの代表的家庭料理だ。
作り方は今度別の機会にご紹介。
このところ私の不定期便、脱線続きなので。
どんなお料理かわからない人のために簡略紹介だけ。
ガスパチョは、トマトベースの冷たくておいしいスープ。
カラコーレスというのは、かたつむりだ。
これ、ゆでて独特のスパイスで味付けして
冷たく冷やしてビールと共においしくいただく。
(ちなみに私はこれだけは、どうしてもいただけないのだ。)
ポターヘというのは、豆の煮込みシチュー。
普通、トシーノというラードのかたまりを入れて
こっくりした味に仕上げるので、
体形にはとても危険なお料理だ。
でも、スペイン人はこういうのをお袋の味というか、
代表的なお料理の第一番に挙げる。
もともと大家族のスペインでは一品料理でなく、
家族がお友達を連れて帰ってきても、
何人増えても大丈夫なように、
こういうお料理を頻繁にメニューに登場させる。
さぁさぁ、入って、入って、
沢山、おあがんなさい!
遠慮はダメよ!
みたいな雰囲気が、
これらのお料理のイメージとして定着している。
だから、フラメンコのフェスティバルにこういう名前をつけて、
本当にお客全員に、
このお料理を出すのだ。
とっても家庭的で、気前がいいでしょう?
何百人も集まる聴衆に、
大鍋で作って出すのだから。
勿論、主催はそれぞれの村だから
公的な援助があってやっている。
それでなかったら、
安いチケット代ではとてもやれないと思う。
まぁ、村祭りみたいなものだから。
でも、出て来るアーティストは一流だから、
とても楽しいフラメンコの祭典と言える。
開催の期間もくっついているし、
旅行のプランを
この三大フェスティバルに合わせて来ても
きっと満足できると思う。
もともとフラメンコの楽しみ方は、
こういう野外で行われるイベントにあって、
劇場公演は、
むしろ邪道と言えるくらいなのだ。
何が飛び出すかわからない、
こういう舞台でこそ、
即興の楽しさが満喫できるし、
フラメンコというのは本来は凝った演出とか、
照明を必要とするものではないのだ。
その、アーティストの芸ひとつで見せるものだし、
心意気とか、気風の良さ、
即興のすばらしさにこそ、
人々は惹かれるのであって、
舞台芸術というものは、
本来の玄人好みのスペイン人達は、
割りとバカにする傾向がある。
私は、大昔のビエナルで、たまたまあの、
カンテの大家、
マノーロ・マイレーナの
すぐ後ろの座席に
座っていた事があるのだけど、
この時、舞台では
マリオ・マジャが
マルティネーテを踊っていた。
この踊り手の常で、
かなり凝った照明効果と、
演出だったのだけど、
その時マノーロ・マイレーナが
「ホウーエ!(これは割りと悪い言葉。
口にするとお母さんがたしなめるくらい)
劇場用のフラメンコだな!!」
と吐き捨てるように言ったのでした。
ああ、ナルほど、こういう風に感じるのだな、正直なところ。
と私は感心したのでした。
昨今の日本は、この劇場用フラメンコで溢れているから、
そっちに慣れている人が
かえって
本来のフラメンコを見たら
びっくりしてしまうかもしれない。
これ、何?なんて。
そう言えば、最近の不定期便で
ウトレーラのフィエスタの
ライブ・ビデオを
絶賛したか推薦したような記憶があるが、
ああいうフラメンコについて
ちゃんと説明しないと、
劇場やタブラオのフラメンコばかり見ている人は
仰天してしまうかもしれない、
と遅まきながら気がついた。
みんなフラメンコの衣装でかためていないし、
普通の伯父さん、
叔母さん、
お姉さんが出てきているんじゃないだろか!
と驚くかもしれない。
これは、違う。
あの人達はみんな泣く子も黙る大家達で、
大家になると、
フラメンコの衣装は着ないのだ。
着ないのが粋とされている。
ブレリアやタンゴの本物のフェルガは、
私服で飛び出すのが本当なのだ。
そして最小のスペース、最小の表現で、
いかに芸の厚みを披露するか、
にかかっている。
本来、ブレリアとかタンゴというのは、
そうやって踊るものなので、
舞台の端から端まで
ガタガタ足を入れて
突っ切るものではないのだ。
そういうものを踊ると、
ああ、かわいそうに、
外人がアカデミアで必死に覚えたのね、
と同情される。
それが証拠には、日本の公演などで、
派手に舞台を駆けずり回っている来日アーティスト達も、
本物のフェルガになると、
ああいう劇場用の
ショー・アップされた踊り方は絶対にしない。
周りの玄人達に軽蔑されてしまう事を
ちゃんと心得ているからだ。
フラメンコって種類が沢山あってわかりにくーい!
という感想を持つかもしれない。
一つだけと言ったらどれが本物か、
という質問をもしされたら、
ウトレーラのビデオのようなのが本物だ、
と答えるしかない。
あれが究極のフラメンコだからだ。
そしてああ言う風に踊れるようになれたら
踊り手の本懐と言うべきだ。
何故って、あれは見かけ程やさしくないからだ。
あらゆるレトラと歌の形式が血肉となり、
コンパスが呼吸と同じものになるほどの
芸域に達しないと、
決して、決してああいう踊りなり、
歌はできない。
あのビデオで歌っている伯父様、
ホセの事は、
本来ならライバルとして見なす筈の
ドランテ(レブリーハの出身)
一族でさえ、
「ああ、あの人達!!
あの、素晴らしいフラメンコの本物のアーティスト!」
と絶賛して言葉を惜しまない。
私の課題だ。
どうやって分かりやすく生徒達に
本物のフラメンコというのが
どんなものなのか、
何を基準にしてそう決めるのか、
を伝えるのが。
力の限り、アーティストを日本に招聘し、
謎解きをして行こうと思う。
まずは、あの、素晴らしいヘスース・エレディアの
古い、古い正当的なカンテ・ホンドを聞いて
ショックを受けて欲しい。
できれば、歌としては最古と言われる、
素晴らしいサエタも歌ってもらおうと思う。
ヘスースはこの歌の大家だし、
これが素晴らしく歌える人は
スペインでもざらにいないのだから。
と、書いただけで私は泣きそうになってしまう。
サエタは素晴らしい。
うちの生徒だけに限定しないで、
広く日本のファンにも扉を開いて、
どうぞお越し下さい、と言いたいのだが、
残念ながらスペースの関係でそんなに入れない。
限定するのはとても、
とても残念ですが、
先着20人の申し込み者だけ、受け付けます。
アカデミーとか、内、外の生徒とか、
一切のしがらみなしで
どうぞ、フラメンコを心から愛するファンとして
遠慮なく参加して下さい。
こういう催しをスペインでも日本でも
少しづつ実現させて行く努力をします。
喜んでいただけたら、本望です。